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命の教魂 ~公憤(こうふん)起動~

序章 1

特別な朝を迎えた。
梅雨入り宣言はまだされていない2014年6月2日。創業から16年と11ヶ月。
僕は今、東京証券取引所の前に立ち、大きく深呼吸した後、その建物を見上げている。

指定の時間と共に主幹事証券会社の担当者と建物内に導かれるように入った。広い待合ロビーは静けさに包まれていた。次の案内が来るまでの時間を楽しむように緊張の中に佇んでいた。やがてその時が来て、儀式を行うための大広間に通された。
大広間窓側の席、中央には社長である僕が座り、左右に分かれた我が社の役員、及び幹部社員が一列に並ぶように座る。
やがて、東京証券取引所の役員・幹部達が入ってきた。序列に従って向かい合うように座る。緊張はピークだ。込み上げる想いは味わった事がないほどに胸を熱くしていた。東京証券取引所一部承認の証である重厚感ある大きな盾と趣あるケースに入れられた小槌が渡され、記念写真を写した。一連の儀式は何事にも変えられないほどの高揚感を連れてきていた。

創業から16年と11ヶ月。思い起こせば、長いような、短いような。業界の常識と闘った日々だった。東証一部上場のその日、流れるように進む儀式を噛み締めながら時間(とき)を刻んだ。
そして、その儀式を終え、ここに至るまでの雑談をする頃には緊張は解れていく。
以前、経済番組などのメディアから流れる有名企業の「新規上場企業の神聖な儀式・上場を告げる鐘」の場面を観ていた僕が今、この「上場を告げる鐘」のもとに至るまでの通路を案内係に導かれ、同志達と共に歩いている。
そこは、想像していたよりも細い通路だった。左手にある柵の下には、経済ニュースで映し出されていた上場企業の株価が大きな円を描いて回る株価ボードがあった。驚いたことに、よく見るとそこに回っているすべてが、我が社になっていた。
「祝・東証一部上場・株式会社ティア」
またまた胸に熱いものが込み上げて来た。興奮はピークに達した。歩きながら頭の中で長いこれまでの半生を走馬灯のように蘇らせていた。

僕の原点とも言える、魂で教えてくれた言葉が、冨安家にはあった。
龍馬さんの生き方に男として躾(しつ)けられ、夢が志に変わる。
死をもって、命をかけて教えてくれた運命の出逢いがあった。その方々の教魂が震えるほどの生き様を見せつけてくれた。藤田先輩が、高木師長が、その命をもって教えてくれたあの日々が止め処なく蘇る。足取りは緊張のせいか、心なしか浮き足立っている。未知なるステージへの道。他の同志達は僕以上に緊張しているかもしれない。

その神聖な鐘を目の前にして、深く深く一礼した。小槌を両手で受け取り、握り締めた。

僕は心の中で呟く。
「志を抱いたあの日、そう、あの会議で「公憤(こうふん)」を抱いた日から、通過点の一つとして描いていた東証一部上場企業への道。
藤田先輩、高木師長・・・・・おばあちゃん、龍馬さん・・・。
『命をもって教え、伝えてくれた熱い魂からの言葉を、想いを、我が人生の飽くなき挑戦の礎として、どんな時も諦めずに歩んで来ました。今、僕は東京証券取引所、そのステージの中にいます。
株価ボードを見守るように吊るされた神聖な鐘の前に同志達と共に立っています。
今日、この日、ここから新たなステージ、全国制覇への道を目指します。
そして、お客様の為に、この業界を変えるために、必ず成し遂げてみせます。
見ていて下さい。この僕に『与えられた天命』を使い切ります」

僕の目は湧き上がる熱い涙で潤んでいた。
小槌を手を合わせた親指と人差し指の上に乗せ、合掌するように黙礼し、多くの想いを乗せて、目を開けると共に、僕の右手はその小槌を想いを込めて握り、強く振り下ろした。

「カ~ン!!」
2014年6月2日。鐘の音は会場内の隅々まで響き渡った。更に続く大志の扉を開けるように。会場にいるすべての方々が、仕事の手を止め拍手してくれていた。

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